椹野道流女史の作品との出会いは友だちが貸してくれた『暁天の星 鬼籍通覧』だった。
本のサイズは新書で講談社ノベルズ。
その形態だけで年月を感じるわ。
友だちが貸してくれる時に言った「怖いというか、もやっとするかも」という発言は読了後、的を得てるなって思った。
でも読んでいてすっごく楽しかった。
始めて法医学という学問があることを知り、それに伴って解剖の基準、解剖の手順、警察との関係、監察医制度などいろんなことを初めて知り、興味を持った。
しかも作者が当時、大学で解剖を行っている現役の法医学者でもあったので説得力が半端ない。
みるみる引き込まれて、他の作品も購入し読んだ。
作品押しから作家押しになったのだ。
ある時、椹野女史のTwitter(当時)でエッセイの連載を始めるとのアナウンスがあった。
小説投稿サイト『ステキブンゲイ』で『晴耕雨読に猫とめし』という連載。
その連載のなかで『自己肯定感の話』が始まった。
椹野女史と祖母とのロンドン旅行記。
毎週水曜日の更新がたまらなく待ち遠しかった。
自己肯定感が高く、美しいものが大好きな祖母と自己肯定感は低めの孫娘の珍道中。
それだけでも面白いけど、この2人が出会った人たちが本当に最高なのだ。
この中で最も心に刻みこまれたのは第2話に登場するCAさんの言葉。
ロンドンで一人祖母の世話をしなければいけない孫娘がCAさんにホスピタリィ教室を開いてもらった時にかけられた金言。
「大切なのは、お祖母さまには何ができないかではなく、何をご自分でできるのかを見極めることだと思います。できないことを数え上げたり、時間をかければできるのにできないと早急に決めつけて手を出したりするのは、結局、お相手の誇りを傷つけることに繋がりますから」
グサグサと心に言葉の矢が突き刺さった。
介護とまではいかないものの、老親と生活するにあたり、手を出しまくっているんだもん。
だって自分が動いたほうが早いから。
私は老親の出来る能力を減退させ、プライドを傷つけていたのかもしれないと気付いた瞬間だった。
今も出来ているとは言えないけれど、老親がやろうとしていることには手助けは最低限にするようにした。
何かをしてもらった時は必ず「ありがとう」を言うようにしている。
食器を拭いてくれてありがとう。
ごみをごみ箱まで持って行ってくれてありがとう、など。
私の行動を少し変えてくれたエピソードだ。
そんな学びを与えてくれた『自己肯定感の話』が書き下ろしエピソードを加えて書籍化との情報解禁があったときの喜びったら!
購入予約が出来るようになったら、速攻予約したね。
届いたときはすごく大切な宝物が手に入ったような気持ちになった。
紙の書籍を購入した時は興奮するね。
大切に読もうと思っていても、さくーっと読んでしまって、一気読みの楽しさと読み終えてしまった寂しさを味わった。
今度は再読しましょ。
『晴耕雨読に猫とめし』では他にもいろんなエピソードを連載中。
個人的にはシリーズ連載になっているエピソードはとても興味深いものが多いのでお勧め。
そして本日時点でシリーズ連載中の『新型コロナウイルスに感染した話』は面白いんだけど、それと同時に今後自分の身に降りかかってくるであろうことのシミュレーションを行っているような気分になる。
結末はX(Twitter)で呟かれているので、それを読んでいた人たちはみんな知っている。
エッセイではつぶやかれなかったことを詳細に補完しているって感じで、しかもその壮絶さに言葉を失う。
私は同じ立場に立った時、同じように動けるか自信がない。
それでも読み物として、エンタメとして読みごたえは思いっきりあるんで、読んでもらえたら何故か私がうれしい(笑)
そして他のエピソードの書籍化も個人的にとても期待している。
いつまでそのページがあり続けるかわからないから、リンクは貼らないようにしているんだけど『晴耕雨読に猫とめし』のリンクだけは下に貼っておこう。
祖母姫、ロンドンへ行く!
著者:椹野道流(ふしのみちる)
出版社:小学館